おかあさんへ
わたしのだいすきなふくを、
おかあさんが切って、ざぶとんにしてしまった。
「なんで こんなことするのよ」
わたしはないて、おこった。
だいすきなふくはオレンジ色で、もうふみたいにあたたかくて、
むねのまんなかに、フエルトのうさぎがぬいつけてあった。
ざぶとんなんかにしちゃったら、おしりでふんづけられるうさぎが、かわいそうじゃない。
「もえちゃんはもうすぐいちねんせいなんだから、このふくは ちいさくなっていたでしょう?」
おかあさんはそういった。
きられなくっても、だいすきなふくはだいすきなんだもん。
おかあさん、ちっともわかっていない。
あのうさぎをつけてくれたのは、おかあさんなのに。
わたしは あたまがぐるぐるまきになるぐらいおこっていたから、
おかあさんにひどいことをいって、とびだしたんだ。

ひとつめのかどをまがって、
おいなりさんの大きなクスノキめざして
わたしは はしっていった。
それから、
どっしりとした木にもたれると、
はっぱのすきまから そらをみあげた。

じっとそうしていたら、
わたしのぐるぐるまきのあたまは ほどけて、いやなきもちは風といっしょに
どこかとおくへながれていくのがわかった。
そうすると、わたしがおかあさんにいった ひどいことばは、
ほんとのほんとにひどいことだって、おもえてきたの。

おかあさんがわたしのこと、おこっていたらどうしよう。
おかあさんがわたしのこと、もう きらいになっていたらどうしよう。
ひどいことばも、風がさらっていってくれたらいいのに。
だけど、
ことばはおかあさんになげつけちゃったので、わたしのところにはないから、
けすことなんてできない。

“ダイキライ”
なんて、いわなきゃよかった。

ゆうがたになって、おなかがすいて、
さびしくなったから、
わたしはうちへかえった。
おかあさんにあうのは、どきどきして
こわかった。

おかあさんは、わたしのかおをみると、
「おかえり」
といった。おこってなんかいなかった。
そして、きいろいぼうしをわたしにみせて、
「はるになったら、これをかぶって
がっこうにいくのよ」
といった。
きいろいぼうしには、わたしのなまえと
チューリップが、ししゅうしてあった。
とってもきれいでかわいくて、
すごくすごーくうれしかったから、
『ありがとう』っていいたかったんだけど、
いえなかった。
『ごめんなさい』も、いいたかったんだけど、いえなかった。
わたしはこえがどこかへいってしまったみたいに、口をパクパクさせていただけなのに、
おかあさんは、みんなわかっているみたいなかおをして、
「さあ、ごはんにしましょう」
と わたしのあたまをなでた。
わたしはぼうしのつばをにぎって、ちいさくうなずいた。
なんだかとても、はずかしいきもちがした。



おかあさん、
わたしはすなおな子じゃありません。
でもきっと、いちねんせいになったら、
ありがとうも
ごめんなさいも
ちゃんといえる、いい子になります。

だから、もうすこしだけ
まっていてください。

それから、やっぱり
うさぎの上にはすわれません。
だからこうして、まくらにして、
おかあさんにいえなかったことを
おはなししているのです。



2002.6.13


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