■ 川べりの家 ■
子供だった頃の私。いつも服はヨレヨレ、髪はボサボサ、体はガリガリだった。
それでも私、幸せだったと思えるの。
パパと一緒に暮らしてたあの頃。私は、とても幸せだった。
私たちの家は鉄橋の下。ベニヤ板と段ボールで出来た小さな家の前には、川が流れてた。
春は一面の菜の花。夏にはカエルの歌声を聴き、秋はススキのささやきを聴いて。冬にはパパと寄り添い、川へ舞い降りる雪を眺めた。
私とパパのそばには、いつも子犬や子猫たちがいた。パパが拾ってきたよね。かわいそうにって頭を撫でて、家へ連れ帰ってきた子たち。あるモノは死に、あるモノは自力で生き延びて。私たちには、あの子たちに与えられる食べ物なんてなかった。だからいつも、子犬と子猫しかいなかった。
私たち、いつもおなかを空かせてたね。
パパの仕事は、駅と裏路地の巡回。夜明け前、食べ物を探すの。昼や夜はダメ、人がたくさんいるから。パパは人の恐ろしさを誰よりもよく知っていた。人に見つかったら、さらわれるよってパパが言うから、私も人が怖かった。
あんなに厳しく、パパに言われてたのに。私、バカだったわ。
堤防で遊んでいる人の子たち。ふわふわ浮かぶ、透明な泡玉に惹かれて近付いた私。
シャボン玉…って、いうのね。あれ。丸くて透きとおっていて、壊れやすくて。パパみたいって思った。
私を見て驚いた子たちが、きっとおとなの人に喋ったのね。
何日もしないうちに、たくさんの人がやって来て、パパと私を引き離した。
川べりの家は壊された。
私は児童保護センターへ。パパは警察署から病院へ。
たくさんの人、人、人。
さわがしくて耳がつぶれそうだった。あわただしくてめまいがした。見おろすたくさんの目が怖かった。寂しかった。不安だった。
パパも、どこかで同じ目に遭っているのかと思うと、息ができないくらい胸が苦しくなった。
ごめんね、パパ。私のせいだね。
義務教育というものがあって、私は学校へ通うようになった。
人と話す代わりに、たくさん本を読んだ。たくさん勉強して、判ったの。
私、急いで大人にならなくちゃいけないって。
周りが何を言っても、傷ついているヒマなんてなかった。早く、パパを迎えに行かなくちゃ。それだけを考えてた。
あのねパパ。私、パパがホントのパパじゃないって知ってるの。
血液型で、親子かどうか判るのよ。パパはAB型で、私はO型なんだって。パパがAB型なら、けっしてO型の子供は産まれないのよ。
私、パパに拾われたのね。あの子犬や子猫のように。
パパはきっと、かわいそうにって、私の頭を撫でて、あの川べりの家に連れて帰ってくれたのね。
パパ。
ありがとう。
私を見つけてくれた人が、パパで良かった。
今度は私が、パパを迎えに行くよ。
あと少し。ほんの数年。もうすぐ、会いにいけるから。
そしてまた、一緒に暮らそう。
なつかしい川べりの家で。
2004.5.18
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