川べりの家

 子供だった頃の私。いつも服はヨレヨレ、髪はボサボサ、体はガリガリだった。
 それでも私、幸せだったと思えるの。
 パパと一緒に暮らしてたあの頃。私は、とても幸せだった。


 私たちの家は鉄橋の下。ベニヤ板と段ボールで出来た小さな家の前には、川が流れてた。
 春は一面の菜の花。夏にはカエルの歌声を聴き、秋はススキのささやきを聴いて。冬にはパパと寄り添い、川へ舞い降りる雪を眺めた。

 私とパパのそばには、いつも子犬や子猫たちがいた。パパが拾ってきたよね。かわいそうにって頭を撫でて、家へ連れ帰ってきた子たち。あるモノは死に、あるモノは自力で生き延びて。私たちには、あの子たちに与えられる食べ物なんてなかった。だからいつも、子犬と子猫しかいなかった。

 私たち、いつもおなかを空かせてたね。
 パパの仕事は、駅と裏路地の巡回。夜明け前、食べ物を探すの。昼や夜はダメ、人がたくさんいるから。パパは人の恐ろしさを誰よりもよく知っていた。人に見つかったら、さらわれるよってパパが言うから、私も人が怖かった。

 あんなに厳しく、パパに言われてたのに。私、バカだったわ。
 堤防で遊んでいる人の子たち。ふわふわ浮かぶ、透明な泡玉に惹かれて近付いた私。
 シャボン玉…って、いうのね。あれ。丸くて透きとおっていて、壊れやすくて。パパみたいって思った。
 私を見て驚いた子たちが、きっとおとなの人に喋ったのね。
 何日もしないうちに、たくさんの人がやって来て、パパと私を引き離した。
 川べりの家は壊された。


 私は児童保護センターへ。パパは警察署から病院へ。
 たくさんの人、人、人。
 さわがしくて耳がつぶれそうだった。あわただしくてめまいがした。見おろすたくさんの目が怖かった。寂しかった。不安だった。

 パパも、どこかで同じ目に遭っているのかと思うと、息ができないくらい胸が苦しくなった。
 ごめんね、パパ。私のせいだね。


 義務教育というものがあって、私は学校へ通うようになった。
 人と話す代わりに、たくさん本を読んだ。たくさん勉強して、判ったの。
 私、急いで大人にならなくちゃいけないって。
 周りが何を言っても、傷ついているヒマなんてなかった。早く、パパを迎えに行かなくちゃ。それだけを考えてた。

 あのねパパ。私、パパがホントのパパじゃないって知ってるの。
 血液型で、親子かどうか判るのよ。パパはAB型で、私はO型なんだって。パパがAB型なら、けっしてO型の子供は産まれないのよ。

 私、パパに拾われたのね。あの子犬や子猫のように。
 パパはきっと、かわいそうにって、私の頭を撫でて、あの川べりの家に連れて帰ってくれたのね。

 パパ。
 ありがとう。
 私を見つけてくれた人が、パパで良かった。


 今度は私が、パパを迎えに行くよ。
 あと少し。ほんの数年。もうすぐ、会いにいけるから。

 そしてまた、一緒に暮らそう。
 なつかしい川べりの家で。




2004.5.18


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