◆ ちいさなもりのむし ◆
5.
森の中はうす暗いですが、雨足がすこし遠のいたような気がします。
そして、深緑の香りが体中をかけぬけると、ふしぎなすがすがしさがするのです。
「森へ来るなんて、いったい何年ぶりだろうなぁ……」
お父さんはひとり言のようにつぶやきます。
女の子は、雨にぬれていっそうふかい色に染まった森の木々が、ちょっと怖いと思いましたが、同時にわくわくするような気持ちもしていました。だって、あの踊っているような木の形、巻き付いた蔓はブランコのよう。岩の上にこんもりと茂るふかふかの苔は、まるで緑のじゅうたんみたいなのです。
きれいで、おもしろくて、探検してみたくなるじゃありませんか。
すぐ近くで、滝の音も聞こえます。
お父さんはぼんやりと立ちつくしたまま、なにごとか考えているようです。
女の子は音のするほうへ歩いてゆきました。
ほんの少し歩いて、緑をかきわけると、見あげる高さの滝がありました。その落ちてゆく水の先には、底の見えない滝つぼがあります。
女の子はまたすこし、怖くなってきました。
足もとの岩は雨にぬれてすべりそうです。
女の子はハンカチに包んだちょうちょを下に置いて、しゃがみこもうとしました。
そのときです。
強い風が、うしろから吹いてきました。
風にさらわれ、滝つぼに吸い込まれていく、黄色い羽 ――
「おとうさん! ちょうちょが、ちょうちょが……!」
あとの叫びは声になりません。女の子は見えなくなった小さな黄色を追うかのように滝つぼをのぞきこみます。
「あぶない!」
かけつけたお父さんは、娘までもが落ちてしまっては大変とばかりに、女の子を抱きとめました。
いきおいよく流れ落ちる滝は、ごうごうと音を立て、泣き出した女の子の声を吸い込んでゆきます。
フルールはどうなったのでしょうか。
滝つぼに落ちて死んでしまったのでしょうか。
それとも、お父さんが言うように、すでに町で力つきていたのでしょうか?
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