ちいさなもりのむし 
5.
 (もり)(なか)はうす(ぐら)いですが、雨足(あまあし)がすこし(とお)のいたような()がします。
 そして、深緑(しんりょく)(かお)りが(からだ)(じゅう)をかけぬけると、ふしぎなすがすがしさがするのです。
(もり)()るなんて、いったい(なん)(ねん)ぶりだろうなぁ……」
 お(とう)さんはひとり(ごと)のようにつぶやきます。
 (おんな)()は、(あめ)にぬれていっそうふかい(いろ)()まった(もり)木々(きぎ)が、ちょっと(こわ)いと(おも)いましたが、同時(どうじ)にわくわくするような気持(きも)ちもしていました。だって、あの(おど)っているような()(かたち)()()いた(つる)はブランコのよう。(いわ)(うえ)にこんもりと(しげ)るふかふかの(こけ)は、まるで(みどり)のじゅうたんみたいなのです。
 きれいで、おもしろくて、探検(たんけん)してみたくなるじゃありませんか。
 すぐ(ちか)くで、(たき)(おと)()こえます。
 お(とう)さんはぼんやりと()ちつくしたまま、なにごとか(かんが)えているようです。
 (おんな)()(おと)のするほうへ(ある)いてゆきました。

 ほんの(すこ)(ある)いて、(みどり)をかきわけると、()あげる(たか)さの(たき)がありました。その()ちてゆく(みず)(さき)には、(そこ)()えない(たき)つぼがあります。
 (おんな)()はまたすこし、(こわ)くなってきました。
 (あし)もとの(いわ)(あめ)にぬれてすべりそうです。
 (おんな)()はハンカチに(つつ)んだちょうちょを(した)()いて、しゃがみこもうとしました。
 そのときです。
 (つよ)(かぜ)が、うしろから()いてきました。
 (かぜ)にさらわれ、(たき)つぼに()()まれていく、黄色(きいろ)(はね) ――
「おとうさん! ちょうちょが、ちょうちょが……!」
 あとの(さけ)びは(こえ)になりません。(おんな)()()えなくなった(ちい)さな黄色(きいろ)()うかのように(たき)つぼをのぞきこみます。
「あぶない!」
 かけつけたお(とう)さんは、(むすめ)までもが()ちてしまっては大変(たいへん)とばかりに、(おんな)()()きとめました。
 いきおいよく(なが)()ちる(たき)は、ごうごうと(おと)()て、()()した(おんな)()(こえ)()()んでゆきます。



 フルールはどうなったのでしょうか。
 (たき)つぼに()ちて()んでしまったのでしょうか。
 それとも、お(とう)さんが()うように、すでに(まち)(ちから)つきていたのでしょうか?


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