ちいさなもりのむし 
2.
 フルールは、(あめ)をぬい、(もり)木々(きぎ)をかすめるようにして、ヌシ(さま)がいるという(たき)つぼめざして()んでゆきました。
 茶色(ちゃいろ)くにごった(かわ)(みず)をさかのぼっていくと、ごうごうとひときわ(おお)きな水音(みずおと)()こえてきます。
 灰色(はいいろ)(そら)から()ちてくるように(なが)れる(みず)は、(おお)きな(たき)です。その(した)の、こゆい(みどり)木々(きぎ)(くろ)(ぐろ)とした(いわ)にかこまれた(たき)つぼは、とても(くら)いところでした。
 おじけづいてしまいそうな気持(きも)ちをはげまして、フルールは(たき)(おと)にまけない(おお)きな(こえ)でヌシ(さま)()びかけました。
「ヌシさま〜、(もり)のヌシさま〜。
おねがいがあります、どうかきいてくださ〜い」
 フルールの(こえ)は、うずを()(たき)つぼのなかに()いこまれてゆきます。
 しばらくして、すこし(みず)(おと)がしずかになったかと(おも)うと、水底(みなぞこ)から(ひく)(こえ)がひびいてきました。
「……ワシを()ぶのはだれだね」
 フルールは(たき)つぼの(うえ)()りだした(えだ)にとまって、ヌシ(さま)(こた)えました。
「わたしはフルールといいます。もう(あめ)をふらせないでほしいと、お(ねが)いにきました」
「それはならぬ」
 ヌシ(さま)はそっけなく()います。
(ちか)ごろ、(そら)(つち)もひどく(よご)れておる。だから(あら)(なが)さねばならぬのだ」
「それじゃ、いつになったら、この(あめ)()むのですか? きれいになるのにはどれくらいかかるのでしょうか?」
「ワシにきくな。……いくら(あら)(なが)してきれいにしても、また(よご)す やからがおるのでな。
そやつらが(あらた)めぬかぎり、ワシはいつまでも(あめ)()らさねばならぬ」
「そやつら とは、だれですか?」
 ヌシ(さま)はすこし(くち)をつぐんだあと、ますます(ひく)(こえ)(こた)えました。
(かわ)(くだ)った(さき)()んでおる、“(ヒト)”のことだ」
 そして、ヌシ(さま)はフルールに(おし)えます。
(ひと)(もり)()りひらく。(もり)()ると、地面(じめん)(かわ)いて気温(きおん)()がる。そしてますます木々(きぎ)()れ、(もり)()っていく」
 そのわるいくりかえしをとめるため、ヌシ(さま)(あめ)をふらし、(もり)(まも)ろうとしているのだというのです。
「ですがヌシさま。ずっと(あめ)がふるばかりでは、()(そだ)たないです。お()さまの(ひかり)がないと、()もわたしも(ひと)も、みんなこまるのです」
「そんなことはわかっておる」
 ヌシ(さま)はふきげんそうに()いました。
「ワシとて、みなを(こま)らせたいわけではない。おまえも(ひと)も、(もり)一部(いちぶ)。ともに()きるべき相手(あいて)だからの。
……しかし、(ひと)はそれを(わす)れておるように、ワシには(かん)じられる。そう(おも)うと、ワシは自分(じぶん)(ちから)(おさ)えきれなくなってしまう」
 (あめ)をふらせているのはヌシ(さま)なのに、ヌシ(さま)自分(じぶん)(ちから)自分(じぶん)であやつれないというのです。そんなことってあるのでしょうか。
 それじゃあ、どうすればよいのでしょう?


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