◆ ちいさなもりのむし ◆
2.
フルールは、雨をぬい、森の木々をかすめるようにして、ヌシ様がいるという滝つぼめざして飛んでゆきました。
茶色くにごった川の水をさかのぼっていくと、ごうごうとひときわ大きな水音が聞こえてきます。
灰色の空から落ちてくるように流れる水は、大きな滝です。その下の、こゆい緑の木々と黒々とした岩にかこまれた滝つぼは、とても暗いところでした。
おじけづいてしまいそうな気持ちをはげまして、フルールは滝の音にまけない大きな声でヌシ様に呼びかけました。
「ヌシさま〜、森のヌシさま〜。
おねがいがあります、どうかきいてくださ〜い」
フルールの声は、うずを巻く滝つぼのなかに吸いこまれてゆきます。
しばらくして、すこし水の音がしずかになったかと思うと、水底から低い声がひびいてきました。
「……ワシを呼ぶのはだれだね」
フルールは滝つぼの上に張りだした枝にとまって、ヌシ様に答えました。
「わたしはフルールといいます。もう雨をふらせないでほしいと、お願いにきました」
「それはならぬ」
ヌシ様はそっけなく言います。
「近ごろ、空も土もひどく汚れておる。だから洗い流さねばならぬのだ」
「それじゃ、いつになったら、この雨は止むのですか? きれいになるのにはどれくらいかかるのでしょうか?」
「ワシにきくな。……いくら洗い流してきれいにしても、また汚す やからがおるのでな。
そやつらが改めぬかぎり、ワシはいつまでも雨を降らさねばならぬ」
「そやつら とは、だれですか?」
ヌシ様はすこし口をつぐんだあと、ますます低い声で答えました。
「川を下った先に住んでおる、“人”のことだ」
そして、ヌシ様はフルールに教えます。
「人は森を切りひらく。森が減ると、地面が乾いて気温が上がる。そしてますます木々は枯れ、森は減っていく」
そのわるいくりかえしをとめるため、ヌシ様は雨をふらし、森を守ろうとしているのだというのです。
「ですがヌシさま。ずっと雨がふるばかりでは、木も育たないです。お日さまの光がないと、木もわたしも人も、みんなこまるのです」
「そんなことはわかっておる」
ヌシ様はふきげんそうに言いました。
「ワシとて、みなを困らせたいわけではない。おまえも人も、森の一部。ともに生きるべき相手だからの。
……しかし、人はそれを忘れておるように、ワシには感じられる。そう思うと、ワシは自分の力を抑えきれなくなってしまう」
雨をふらせているのはヌシ様なのに、ヌシ様は自分の力を自分であやつれないというのです。そんなことってあるのでしょうか。
それじゃあ、どうすればよいのでしょう?
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